ジョホールバル 開発と環境汚染による健康被害

最近気になっているのですが、日本語で検索すると無駄にたくさんジョホールバルへの不動産投資を煽る記事がでてきます。

ジョホールバルはこれから発展していきます!(シンガポールのように!)これから有望です!と煽ってますが、本当でしょうかという話です。

ジョホールバルはどこにあるのか?

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ジョホールバル地図

シンガポールの真上(北)、マレーシアのあるマレー半島の先っぽにあります。

シンガポールインドネシアスマトラ島の間は日本や中国の船が通る物流の一大ルートですので、非常に重要で発展も期待できるところです。

ちなみにシンガポールの北部に行ったことありますでしょうか?

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観光地であるシンガポール南部

例のシンガポールの巨大建造物です。(日本のゼネコンが無理と言っていた建築を韓国の建設会社が安値で請け負った結果、倒壊危険度が上がっているのではないか?といういわくつき。韓国のSK建設の手抜き工事でラオスで建設中のダムが決壊し、大規模な被害が出たニュースは有名ですよね。)

 

とは言え、シンガポールの一人当たりGDPはすでに日本よりも高く、金融や海運の一大拠点となり、外資系企業のアジア地域本社の呼び込みに成功し、非常に発展した”国家”になりました。

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GDP per capita (World Bank Data, https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD?locations=SG-JP)

一方発展した南部と比較し、北部は住宅街というかあまり何もありません。

JBセントラル(マレーシア)~Woodlands(シンガポール)間が国境駅となっており、鉄道の場合はこちら。陸路の場合はジョホールシンガポールコーズウェイを専用バスで渡ることになります。

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ジョホールシンガポール・コーズウェイ

シンガポールの鉄道網はかなりしっかりとしているため、入国後、北部のWoodlands Northからシンガポール都心部のある南部へ行くことができます。

ジョホールバルシンガポールに働きに行くマレーシア人が住む町となっています。多くの場合はシンガポールに住むお金のないマレー系・インド系のマレーシア人(建設業・ホテルの清掃等の肉体労働に従事)が住んでいます。

ジョホールバル開発計画(イスカンダル計画←と呼ばれる)

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James Clark, Future Johor-Construction projects in Johor Bahru / Iskandar Malaysia, livingasia.co, September 23rd, 2018.)

ジョホールバルシンガポール3つ分の広大な土地を開発しようというプロジェクトが近年行われており、総称としてイスカンダル計画と呼ばれています。

おそらく元締めはこちらの団体(IRDA; Iskandar Regional Development Authority, http://www.irda.com.my/)で、官民の開発計画の調整・ブループリント(大まかな計画書)も作成しています。

日本語でマレーシアイスカンダル計画と検索するとたくさん記事が出てきますが、英語でIRDAのニュースを探してみるとあまりヒットしません。正直うさんくさいです。

ちなみにジョホール州のSultan(王様)はIbrahim Sultan Iskandarと言います。ここからきているのでしょうか?

ただ開発計画があるのは事実で、レゴランドが建設されるだとか、大学が誘致されるだとか、日本のディベロッパーが参入するだとか、イオンがショッピングモールを建設するだとか情報はいろいろでてきます。ジョホールバルの将来が明るいのは事実なので、自由に投資するのもよいと思いますが、マレーシアの住居の劣化はかなり早いので気を付けるのがよいのではないかと思います(都市開発で人が住むようになるまで何年かかるか見極めたほうがよいと思います)。

マレーシアの元首相ナジブ

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汚職により逮捕されました(Reuter, https://jp.reuters.com/article/malaysia-politics-najib-idJPL3N2EZ1FU, 2020/7/28)。1MDB問題と呼ばれるのですが、マレーシア政府系ファンド(インフラ開発系を含む)を利用した不当な利益獲得・資金洗浄を行ったとしてナジブ元首相は逮捕されました。その額10億ドル以上とも。

ナジブ首相時代にはマレーシアは中国の一帯一路政策に協力しており、大規模なインフラプロジェクトを多数計画していましたが、選挙で野党勢力のパカタン・ハラパンが初の政権交代を果たし、マハティール首相に政権交代すると多くのインフラ開発プロジェクトが凍結されました。

なかなかけしからん話です。

当然大規模なプロジェクトであるイスカンダル計画についてもブレーキがかかるのは間違いないでしょう。

疑惑の中心にいたゴールドマンサックスについても、2人の元社員の逮捕と流出額と同額の巨額の支払いをマレーシアに行うことにより(組織としての関与は認めず)、解決しました。

先行する大規模都市開発

ただ開発が白紙に戻ったり、中止されるわけではないのもまた事実でしょう。マレーシアの大規模都市開発の現状を紹介します。

・Cyberjaya (サイバージャヤ)

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1997年ごろからインド・中国に続く三番目のアジアのシリコンバレーを目指すとして、ICT企業の誘致や企業の研究開発部門を集積しようと開発が計画された都市です。

元々マレーシアの国家開発戦略として、重厚長大国営企業(車のプロトン社、石油化学系のペトロナスが有名)を育成することで、その裾野産業である部品産業を育成し、国全体の経済底上げを図っていた。しかし人口が少ないマレーシアの内需のみの生産では限界があり、関税を緩めた特区を作り外資を誘致しても、マレーシア地場企業からの現地調達が進まず、加えてアジア通貨危機をはじめとする景気後退にも直面し、この戦略は頓挫。そのため、ICTやR&Dを誘致して、産業を高度化することで、現状を打破する国家戦略の一環として作られた都市がこのCyberjayaです。

地理的にはマレーシアの首都クアラルンプール郊外のパーム油椰子生産地の跡地に作られました。

1997年ごろからの開発計画ですが、アジア金融危機やその後の不景気が続き、計画が進まず、2006~08年の間にやっと開発初期段階が始まる。この段階で172社がサイバージャヤに移転。現在では71%の開発が終了しており、約800社がサイバージャヤを拠点とするようになりました。

参照:https://www.cyberjayamalaysia.com.my/about/the-story

断片的な情報をつなぎ合わせると、2014年時点では7万人の人口、2017年では10万人の人口となると予想され(World Finance the voice of market, https://www.worldfinance.com/wealth-management/real-estate/living-in-cyberjaya-the-silicon-valley-of-malaysia, December 4, 2014)、英語版のWikiでは昼間人口が2018年に11万人、2020年には21万人となっています(なお住んでいるとは言っていない)(https://en.wikipedia.org/wiki/Cyberjaya#:~:text=The%20day-time%20population%20in%20Cyberjaya%20is%20about%20102%2C000,is%20expected%20to%20increase%20to%20210%2C000%20by%202020.)。ウィキペディアも正しく使えばよいのですが、参照がないところを見ると、どこかの不動産業者が悔し紛れに書いたのでしょう。人口増加率が2018~2020年でおかしいです(笑)。都心から車でも行ける距離なので10万人程度が昼間人口だとすると住んでいる人はさらに減ることになります。人口10万の町に住宅投資をするべきか日本で比較してみてください。

・Putrajaya(プトラジャヤ

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ピンクモスクで有名なプトラジャヤはマレーシア首都クアラルンプールとKLIA(国際空港)との間の土地に建設されました。行政都市として建設され、裁判所や各省庁の建物が集積しています(建物にお金かけすぎでは?と思うほど各省庁の建物のデザインは独特です)。当初は環状のモノレールや都心部から直結する鉄道の建設が計画されていましたが、予算不足のため、実施が遅れています。車でしか行けないことに加え、省庁間の距離が非常に遠く、車でないと移動ができません。

このため、公務員系・観光に従事する人とその家族が暮らすのみとなっています。

まとめ

サイバージャヤが発展しているとはいえるが、まだまだ人がたくさん住むようになるまでは時間がかかりそうです。

ジョホールバル開発・環境汚染

ジョホールバル開発はシンガポールに拠点をおく製造業の拠点として期待されているそうです。このための工場用地と港湾施設が建設されています(JETRO, https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2018/2db80a820804ec47.html, 2018年4月14日)。おそらくこれはシンガポールからの視点ですね。

一方マレーシア側ではジョホールバルには既に化学系のプラントが集積されており、マレーシアを代表するペトロナスなどの石油系企業の裾野産業(石油化学・樹脂材)をジョホールバル(正確にはPasir Gudang)に集積しようとしているようです(Dominic, C, Y, Foo, AIChE, https://www.aiche.org/resources/publications/cep/2015/november/malaysian-chemicals-industry-commodities-manufacturing, November 2015)。

製造業の街としてジョホールバルが生まれ変わるかというと、それも微妙なところでして、ジョホールバルの反対側にはインドネシアのバタム島があります。

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近年インドネシア・マレーシア・シンガポールの同地域における経済連携協定(IMS-GT)が進み、バタム島(リアウ諸島)の開発も同時に進行しています。成長の三角形(Growth Triangle)として、開発が進んでいます。

3国の労働賃金はシンガポール>>>>マレーシア>>インドネシアですから、製造業としてはバタム島の方がよい気がしますよね。一方、バタム島は(表向きには)製造業の島として発展してきており、現在はIT系の投資をしているそうです(JETRO, https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/3e4e50fd389683b3.html, 2019年5月10日)。すみわけ・役割分担なのか、単にバラバラなのか情報が出ていないため(信頼に値する情報がないため)、わかりませんが、3つの国がこの地域の開発に絡んでいることがわかります。(ただでさえ、東南アジアの国の公務員(シンガポール除く)はだらだらしているのに加えて)当然開発はスピーディーにはいきません。シンガポールの公務員は非常に高級で特権も与えられるため、優秀ですが、開発の対象が他国であるため、マレーシア・インドネシアの開発に直接干渉することはできません。

発展を願っています。

環境汚染の問題

一方でこちらはかなり深刻です。環境汚染のひどいところに移住したいと考える人はなかなかいないのではないかと思います。

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化学物質を投棄されたKim Kim川

https://www.channelnewsasia.com/news/asia/pasir-gudang-malaysia-river-chemical-poisoning-sungai-kim-kim-11334974

ジョホールバルでは川が複数流れているのですが、そのうちのSungai BenutとSungai Machap(Sungaiは川の意味)では魚の大量死が発生しており、はっきりしていないが、化学物質または産業廃棄物の不法投棄が原因ではないかと、調査が行われ、Sungai Kim Kimでは化学物質の不法投棄により発生した毒ガスにより、地域住民1000人規模が病院に搬送された他、地域の全学校に当たる111の学校が閉鎖され、川の浄化が行われました(FMT News, https://www.freemalaysiatoday.com/category/nation/2019/03/25/johor-sultan-orders-probe-into-pollution-of-benut-machap-rivers/, March 25, 2019)。

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この事件では2700人以上が被害を受けました

https://www.channelnewsasia.com/news/asia/pasir-gudang-chemical-poisoning-timeline-what-we-know-so-far-11348968

この事件では初期には3人の男性が関係者として聴取されていたのですが、政府発表では驚くことに誰も逮捕されておらず、幕引きがなされました(CNA/aw, https://www.channelnewsasia.com/news/asia/pasir-gudang-chemical-poisoning-timeline-what-we-know-so-far-11348968, 16 March 2019)。

化学プラント関係の事件や健康被害はその後もたびたび報道されているようで、風向きがよくないです。築地⇔豊洲市場への移転では東京ガス跡地(豊洲市場)が建設予定地とされ、「ベンゼンが基準値以上に出た」と大騒ぎしていましたが、移住したいという動きが直近10年で進むようにはあまり思えません。

この事件の幕引きを見ると、マレーシア政府がこうした事件を隠蔽する方向に向かっていることも考えられます。日本の足尾(栃木県日光市)の鉱毒事件の隠蔽もありましたが、経済発展の陰にこうした被害を受ける人々が発生することが多いことも忘れてはなりません。

マハティール・アンワル体制に政権変更した後、ルックChinaからルックイースト(日本を見習う)政策に変わったマレーシアの今後に期待すると共に、同地域に進出する日本企業やその従業員にはぜひともお行儀よくしていただきたいです(リアウ諸島のいかがわしいお店に入り浸ることなく)。

新都市開発はかなり時間のかかるものです。1997年から開発が始まり、クアラルンプール郊外で人が集まりやすい地域であるサイバージャヤの開発で人口が10万人程度です。ジョホールで人がどこまで集まるかは不透明です。

加えて、首都から離れた地方の開発事例として、タイのプーケットチェンマイ(首都バンコクからかなり離れている)の開発事例があるではないかという主張もあると思いますが、タイは人口7000万人、マレーシアは人口3000万人の国で規模・内需の大きさが違いますし、プーケットの開発は1980年代から形になり、観光地として認知されるようになるまでに20年以上かかっています。東南アジアの建築物はすぐ劣化します。

こうした情報を考慮の上で、ジョホール州に住むマレーシア人のために日本人が何かをしてくれる未来があればいいなと思っています。

MEMBINA NEGARA MEMENUHI HARAPAN (希望にこたえる、国を育てる)←に貢献してくれる未来がくると。